【体験レポート】無重力簡易実験を行って

パラボリックフライトに関して、テレビなどで宇宙飛行士がその訓練の一環として行っていることは知っておりました。しかし、まさか自分が体験することになろうとは、今回友人に誘われるまで夢にも思いませんでした。

フライトの当日は生憎の雨模様になり、近づいてくる台風によって実験の挙行自体が危ぶまれておりました。そんななか、ダイヤモンドエアサービスのスタッフとのブリーフィングは穏やかな雰囲気に包まれていて、参加者に安心感を与えてくれました。

参加者の顔ぶれも多彩で、それぞれが持ち寄った実験のアイデアも個性的なものが多く、フライトへの期待は高まるばかりでした。フライト直前に出されたランチをパラボリックフライトで発生する2G−0Gで酔うことを危惧して残す方が多い中、私は卑しくも全部平らげてしまいました。結果的には、ある程度腹が満ちていた方が加速度に対して耐えられたような気がしました。

台風の進路によっては日本海側でフライトが行われるというお話でしたが、30分遅れたものの予定通り伊勢湾上空へ向かうことになりました。お揃いのオレンジ色のつなぎに着替えた参加者の面々は、いやがうえにも不安と期待に胸をふくらませておりました。

今回乗り込むガルフストリーム2は推力重量比がよいのか、普段海外へ旅する旅客機よりも遙かに短い時間でどんよりとした雲を抜け伊勢湾上空に達した気がします。今回の参加者には2回目の方もいらっしゃいましたが、初めて参加する面々には緊張と不安の色が見受けられました。

最初に新婚のご夫妻が『指輪の交換実験』をされていました。電光掲示板が見やすい位置にあるおかげで、Gがどのくらいかかっているか一目で分かります。ご夫婦は正装された状態で縦横無尽に機内を飛び回り、見事2回目に指輪を交換されていました。最初にこの実験をされたことにより、参加者は華やかでリラックスしたムードになりました。

次にいよいよ私の番が回ってきました。私の課題は、『ペンチの挙動』と『無重量状態での社交ダンス』です。まず最初にペンチを飛ばすことにしました。実際に体験する前の想像ですと、無重量状態は水中に浮くような感じ、前後の2Gは人一人背負った状態のようなものだと思っておりました。しかし、自分の身体に受けた感覚は、0G、2Gともに今まで体験したことのないものでした。何事も、その場、その状況にならなければ分からないものだと思った次第です。

ペンチは無重量状態になると、重心に対して先端と柄が反転するような動きをするようです。軽い入力で動きが大きく出るよう、事前に動きの軽いものを選び抜いて用意しました。そして、どこかへ飛んでいってしまわないように、安全性を考えて柄に紐をくくりつけておきました。いよいよ無重量状態になり、ペンチを飛ばしながらデジカメで動画撮影をいたしました。自分の身体も回りながらペンチを追うのは、かなり困難な作業でした。後になって考えますと、実験者は身体をどこかに固定していた方がいいように思いました。撮影した動画を見直しましたら、ペンチが重心に対して反転しようとするのを紐が引っ張って邪魔しているように見受けられました。もう一度チャンスがあれば、今度は紐なしでチャレンジしてみたいですね。

次に行ったのが社交ダンス実験です。私自身、社交ダンスの経験はほとんどありませんでしたが、パートナーの手ほどきにより遂行することができました。無重量前の2G状態で相対しておりましたら、自然と土下座の形になってしまいました。しかしそのことによって、この形になると意外にGに耐えられることに気づきました。どうやら、高Gがかかる時は横になるか土下座の形が良いようです。あと、一番身体的に辛かったのは、2Gから0Gになる瞬間でした。0Gから2Gになる過程では何故か不快感を覚えませんでした。

無重量状態で行った社交ダンスは、二人の身体を軸にして駒のように回るような状態になりました。そのうち、二人とも天井にくっつくような形となり、私の頭を支点として回転を始めました。無重量状態において、壁をどのように利用するかが身体操作の要点になるかもしれません。とりあえず、この実験は成功のうちに幕を閉じました。

今回の特色としまして、最後に1/6Gのフライトを行っていただきました。これは月の重力と同じですから、月面に降りた宇宙飛行士の気分を味わうことが出来ました。身体に感じる感覚は、0G状態とほとんど変わらなかったものの、1/6Gによってゆっくりと落下していく様が不思議でした。小さな力で大きく飛び跳ねますから、狭い空間では注意が必要なことでしょう。

全ての実験を終え、コクピットも拝見しました。機長、副操縦士達の沈着冷静な操縦を見て、今回のフライトがパイロットの卓越した技量に支えられたものだと改めて気付かされました。

一時は台風の影響でどうなるか不安だったものの無事名古屋空港に戻り、参加者は貴重な体験をした満足感と同時に、苦楽を共にした仲間意識が芽生えていたように思います。また機会があったら是非参加したいですね。なお、今回の参加者にはスペースシップ2で宇宙に行かれる方もいらっしゃいました。時代はもう、そこまで来ているのですね。

最後に快適で安全なフライトを提供してくださったスタッフの方々に感謝します。

OW様